天草製造の「匠」たち

ボート成型 / 本多一成
ボート成型 / 本多一成

一切の妥協を許さない

中型ボート成型の本多一成です。
入社以来この仕事一筋ですので、約30年くらい携わっていますが、入社したての頃は、樹脂を送りだすポンプの機構やポンプごとの癖もあり、どんな理由で不具合が発生するのか把握できていなくて、これでいいのかなと思いながらそのまま続けてしまって船自体をダメにするという事もありました。
ポンプが正常に動いてないのにそのままやるので、作業が完了したあとに確認すると、でこぼこして歪な感じになってしまったり、自分では作業を丁寧にしたつもりでも、所々ダメな箇所があったりしましたね。
自分が何で間違えてるのかも分からないような手探り状態で作業を進めて工程をダメにしてしまったこともありますが、その経験はとても勉強になりました。

この仕事の一番の難しさは、ガラス繊維の層の中に気泡が入らない様に、規程の厚さ・重なりをメス型に添わせるように脱泡作業をしていく事ですが、目線の高さ、角度、深いところへの光の差し加減など、いろんなシチュエーションで気泡自体が見えにくくなることがあります。慣れてない人だと同じ一定の視線でずっと作業してしまうので、見逃しが発生するんですよね。視点を変えるというのが一番大事なんですけど、慣れていない時は、どうしても視野が狭く一方向です。
今の若い人たちを見ていると、前のめりみたいな感じでやって、確認するときも同じ体勢で本当に見えてるのかなというような感じです。そういう時は一歩下がって、ちょっと視野を広くしてから見た方がいいよと指導はしてますね。

照明が当たらない溝の深い部分というのは、なかなか見にくいと思います。それと顔が入らないところですね。ハンドライトを当てても見えにくいところもあるので、その辺を作業するのはベテランでも難しいと思います。
私自身、若い頃いっぱい失敗してるので、もう油断はしないと言い聞かせています。
これで完璧だって思った時が一番危ないと思っているので、とにかく「これでいいのか?」って、それだけ考えてますね。完璧な作業っていうのは少なく、昨日より今日みたいな感じでいい製品を作っていくのが一番だと思います。
後工程の作業者から「不具合が全然なかったよ」と言われた時は嬉しいですね。
それと積層作業が終わって、組立工程の成形で職場で製品同士を接着する時にどこも接触していないと言われると、厚みも完全になってるっていう事なのでそういう時は作業が良かったと励みになります。

自分しかできない、ここは自分が一番できるみたいな仕事や樹脂ポンプのセッティングとかを自分で直したりして積層作業がスムーズに進む時が一番嬉しいですね。ポンプのセットでほんの1,2ミリの感覚がズレただけで調子が狂ったりするので、その辺のバランスは経験がものを言いますね。
また、100ミリ角でカットされたべニアを始めに置く1枚をミリ単位でセットしないと、後ろへ行けばいくほどズレてきます。だから最初の1枚のセットにはすごく気を付けています。
これくらいいいだろうというのは、絶対にダメだと教えています。
一度妥協をすると、どんどん妥協をしてしまうので・・・

ボート成型 / 本多一成